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東京地方裁判所 平成5年(ワ)2720号 判決 1996年2月07日

原告

バンク・ウォルム(法的形態・株式会社)

右代表者取締役

ジャン・マリー・カナック

右訴訟代理人弁護士

立石則文

古田啓昌

右訴訟復代理人弁護士

江崎滋恒

菅原高志

被告

株式会社イ・アイ・イーインターナショナル

右代表者代表取締役

高橋治則

右訴訟代理人弁護士

松尾翼

松野豊

森島庸介

翁長裕子

浦野雄幸

右訴訟復代理人弁護士

谷口正嘉

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

被告は、原告に対し、2714万9382.90フランス・フラン及び内一〇七万四一三二フランス・フランに対する一九九二年一〇月二一日から、内1355万2317.90フランス・フランに対する一九九二年一一月二三日から、内一二五二万二九三三フランス・フランに対する一九九二年一二月二三日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

本件は、原告のオテルリ・ジュンヌ・リーヴ社(以下「HJR社」という。)に対する貸付金債権の遅延利息につき被告がギャランティーしたことに基づいて、右貸付金の遅延利息の支払を求めた事案である。

一  争いのない事実等(証拠の記載がなければ争いのない事実である。)

1  原告は、フランス共和国の法令に基づいて設立された株式会社(銀行)であり、被告は、観光開発に関する企画、設計並びにそれに関連する投資業務等を目的とする株式会社である。

2  原告が主幹事を務める銀行団(以下「銀行団」という。)とHJR社は、一九九〇年六月二八日、一一億七二五〇万フランス・フランを、弁済期一九九〇年一二月一五日(ただし、順次合意により変更され、最終的には、一九九二年一月一六日となった。甲六の1、2)、遅延利息については、フランス銀行が算定して公表する加重平均金融市場金利(以下「TMP」という。)に四パーセントを加えた利率とした上、一年三六〇日の日割計算により算定することとしてローン・アグリーメント契約を締結し、同日、銀行団はHJR社に対し、前同額の金員を貸し付けた(以下「本件ローン・アグリーメント」という。甲一の1、2)。

二  原告の主張

1  本件ギャランティー

被告は、銀行団及び原告に対し、一九九〇年六月二八日、本件ローン・アグリーメントによって生じる利息及び遅延利息の全額を、HJR社と連帯して支払う旨、同日付けのギャランティー(以下「本件ギャランティー」という。)において合意した。

原告及び銀行団と被告は、本件ギャランティーの際、準拠法を日本法とする旨を約しており、その解釈は日本法により決せられるべきところ、本件ローン・アグリーメントより生じる遅延利息等について負うべき被告の責任の態様については、被告は、本件ギャランティーにより、HJR社と連帯して、あたかも唯一の主債務者であるかの如き債務を負うのであり、単なる保証人としての債務を負うものではない。したがって、被告が仮に主債務者であったとした場合に、その債務を免れさせもしくは影響を及ぼさない事由は、いかなる事由であれ、被告の責任を免れさせもしくは影響を及ぼさないものとする旨を合意した(甲二の1、2、五の1、2、六の1、2、七の1、2)。

被告の右債務は、弁済以外の絶対的効力事由のない全部弁済の義務ある債務であり、併存的債務引受あるいは全部義務の合意ということができる。

したがって、被告の負う債務には、保証債務のような附従性はなく、HJR社がフランスにおいて会社更生手続に付されたとしても、被告の債務になんら影響を及ぼさない。

2  予備的主張

仮に、本件ギャランティーにより被告が負担する債務が連帯保証であるとしても、

(一) 準拠法である日本の民法においては、主債務者に生じた事由が保証人に影響を及ぼす絶対的効力事由は制限され、被告主張の司法救済手続の開始は含まれないし、本件ギャランティーにおいても、相対的効力事由として、HJR社又は第三者の解散、合併、再建または会社更生を含むことを合意している。

(二) また、本件ローン・アグリーメントにつき、フランス民法一九八五年一月二五日法第五五条(以下「法五五条」という。)が適用されるとしても、同条但書が適用される結果、遅延利息の停止は生じていない。

3  遅延利息

(一) 一九九二年九月二一日から同年一〇月二〇日までの期間におけるTMPは14.63348パーセントであったから、元本の内残額である一〇億八〇〇〇万フランス・フランに対する右期間中の遅延利息は、一六七七万〇一三二フランス・フランであるところその残額は、一〇七万四一三二フランス・フラン)である。

(1,080,000,000×(14.63348+4)/100×(30/360)=16,770,132.00)

(二) 一九九二年一〇月二一日から同年一一月二二日までの期間におけるTMPは、9.68921パーセントであったから、元本の内残額である一〇億八〇〇〇万フランス・フランに対する右期間中の遅延利息は、1355万2317.90フランス・フランである。

(1,080,000,000×(9.68921+4)/100×(33/360)=13,552,317.90)

(三) 一九九二年一一月二三日から同年一二月二二日までの期間におけるTMPは、9.91437パーセントであったから、元本の内残額である一〇億八〇〇〇万フランス・フランに対する右期間中の遅延利息は、一二五二万二九三三フランス・フランである。

(1,080,000,000×(9.91437+4)/100×(30/360)=12,522,933.00)

三  被告の主張

1  本件ギャランティーにおける期間の限定

被告と、原告及び銀行団は、本件ギャランティー締結の際、被告の負う本件ローン・アグリーメント上の遅延利息債務について、右締結日から本件ローン・アグリーメントの最初の弁済期である一九九〇年一二月一五日までの約六か月間内に発生するものに限る旨約し、以後順次本件ローン・アグリーメントの弁済期を延長する際も、同様の期間限定の合意をしたため、最終的には、被告が支払義務を負う遅延利息債務は、一九九二年一月一六日までに発生したものに限る旨を約していたものである。

2  本件ギャランティーにおける債務の性質及び内容

(一) 本件ギャランティーにより被告が負担する債務は、HJR社の主たる債務の存在を前提とし附従性を有する連帯保証債務である。

被告と、原告及び銀行団は、本件ギャランティー締結の際、被告が支払義務を負う本件ローン・アグリーメント上の遅延利息債務については、原告とHJR社の本件ローン・アグリーメントにより発生した遅延利息であって、支払期にあり、HJR社が支払うべきものに限定する(二条A項all interests due and payable in respect of the First(Second)Loan)旨を約している。

(二) 本件ローン・アグリーメントの遅延利息の支払に関して、法五五条の適用による遅延利息の発生の停止

銀行団及び原告とHJR社は、本件ローン・アグリーメント締結の際、右契約の準拠法をフランス法とする旨約していたところ、HJR社は、一九九二年一月二二日、パリ商事裁判所に対し、清算の申立てをし、同月二七日、同裁判所は、HJR社について司法救済手続の開始(Judgement opening a judicial recovery proceeding)を決定した。

法五五条によれば、債務者に対する司法救済手続が開始された場合には、期間が一年以上でない貸付金については、右時点以降、遅延損害金も含めた利息は発生しない旨を定めているところ、本件ローン・アグリーメントは、当初期間が約六か月であり、以後の六か月ごとに弁済期を修正したが、いずれも期間は一年未満であった。したがって、司法救済手続の開始決定がなされた一九九二年一月二七日以降は、HJR社において本件ローン・アグリーメントの遅延利息は発生しない。

したがって、HJR社に対して司法救済手続が開始されたことにより、法五五条により、HJR社について一九九二年一月二七日以降の遅延利息は発生しないから、連帯保証人である被告は、原告の請求債権については保証債務の附従性により責任を負うことはない。

四  争点

1  原告と被告との間に、本件ギャランティーの期間を限定する旨の合意があったか。

2  本件ギャランティーにより被告が負担する債務は、併存的債務引受ないし全部義務か、それとも連帯保証債務か。

3  本件ローン・アグリーメントの遅延利息の支払に関して、法五五条の適用により遅延利息の発生の停止が認められるか。そしてこれが、被告の債務に影響を及ぼすか。

第三  争点に対する判断

一  争点1(本件ギャランティーにおける期間限定の合意の有無)について

1  争いのない事実及び証拠(証人野本巌、甲一の1、2、二の1ないし3、五の1、2、六の1、2、七の1、2、二五、二六、乙二)によれば、次の事実が認められる。

被告は、ブライアン・ブライスから、一九九〇年三月ころ、パリ七五〇〇八、フォブール・サントノール通り六八所在の建物(以下「本件物件」という。)を購入、転売する話を持ち掛けられた。

一九九〇年六月二七日、被告も一部支配権を持つHJR社が設立され(被告の保有する株式は全体の五パーセントである。)、本件物件を転売目的で購入することになり、同社は、銀行団との間で、右の購入代金の調達のために、同年一二月一五日を弁済期として、総額一一億七二五〇万フランス・フランの本件ローン・アグリーメントを締結した。

本件物件の転売期間については、当初約六か月間を予定していたので、本件ローン・アグリーメントの弁済期も約六か月と定められた。

被告は、原告及び銀行団との間で、同日、前項の貸金債務の一部を担保するために、元本九二五〇万フランス・フラン及び右貸金の遅延利息について、本件ギャランティーを締結した。

その後、本件建物の転売先を見つけることができなかったことから、HJR社は、原告との間で、一九九〇年一二月二〇日、本件ローン・アグリーメントの弁済期を一九九一年六月とすることを合意し、被告は、銀行団及び原告との間で、同日、被告が原告に対し九二五〇万フランス・フランを支払ったときは、被告の本件ギャランティーの債務負担部分が減縮されるとの合意をした。

そして、被告は、原告に対し、一九九一年一月、本件ギャランティーに基づき、保証した元本九二五〇万フランス・フランを支払った。

HJR社は、原告との間で、一九九一年六月一四日、本件ローン・アグリーメントの弁済期を更に一九九一年一二月一六日まで延長することを合意し、被告は、原告に対し、同日、本件ローン・アグリーメントの弁済期の延長に関して、本件ローン・アグリーメントの下で支払われるべき金額がなくなるまで本件ギャランティーが有効であることを表明した。

更に、HJR社は、原告との間で、一九九一年一二月ころ、本件ローン・アグリーメントの弁済期を一九九二年一月一六日まで延長することを合意し、被告は、銀行団及び原告との間で、右の合意に伴い、本件ギャランティーも維持されるものとすることを合意した。

HJR社は、銀行団に対し、一九九〇年九月、同年一二月、一九九一年三月、同年六月、同年九月、同年一二月、それぞれ本件ローン・アグリーメントに基づき、約定の利息を支払った。

2  以上のとおり、本件ローン・アグリーメントにおける弁済期の延長に伴って、本件ギャランティーの効力が維持される旨の合意がされているものの、被告が主張するような遅延利息の支払義務を期間によって限定する合意の存在は窺われないし、また本件ギャランティー契約書(甲二、同契約二条A項にいう利息は、遅延利息を含むものである。)にも右のような期間を限定する旨の条項は存在しない。他に被告主張の期間限定の合意の存在を認めるに足りる的確な証拠はない。

3(一)  証人野本(陳述書は乙二)は、原告側から「本件は転売を目的とし、六か月間の短期転売用のローンであるから、その間にいわゆるこれも同様に担保でカバー出来ない部分について保証を入れてほしい」という話があり口頭で期間限定の合意があった旨証言するが、第一に、なぜ本件ギャランティー契約書において右の点を明記しなかったのかについて、「それは頭取さんと副頭取さんがおっしゃったからです、その辺を歩いているおじさんが言ったこととは違うという認識をしておりました。」と証言するに止まり、それ以上の合理的な説明がなされていないこと、第二に、本件ローン・アグリーメントの弁済期の数度の修正に際して、被告から原告に対し、保証期間の限定の明文化を求める機会があったにもかかわらず、被告はこれをしていないこと、第三に、原告の子会社が転売に動くので原告は短期の転売に自信を持っていた旨証言するが、仮にそうだとしても、諸般の事情、特に、短期の転売が結果的に実現されなかったという事情も考え併せると、原告が短期の転売ができなかった場合に生じる遅延利息の人的担保について全く不要と考えていたというのは合理的な説明とは考えられないことから、期間限定に関する右の証言は信用できない。

(二)  また、被告の前記主張に沿うと見られる内容の書証(乙三ないし五)が存するが、いずれも、ギャランティーである被告側と主債務者であるHJR社側のやり取りにすぎず、内部において本件ギャランティーの期間を限定する話し合いがあったとしても、それが直ちに被告から原告に伝えられ、原告の了解が得られたことを意味するものではない。

かえって、証拠(甲六の1、2、二六)によれば、すべてのギャランティーが維持されることが期限延長の条件とされていることが認められるのである。

二  争点2(被告の負担する債務の性質)について

1  本件ギャランティーにおける被告の負う債務の性質について、原告は、併存的債務引受あるいは全部義務を負うと主張し、被告は、連帯保証であると主張する。

この点、本件ギャランティー契約書(甲二の1ないし3)上からは、この問題について必ずしも明確な取決めがされているとはいえない。そこで、この問題は、本件ギャランティー契約書、とりわけ同契約書二条(以下「二条」という。)をどのように解釈するかに大きく関わるので、以下二条を中心として本件ギャランティーの内容について検討することとする。

2(一)  二条A項では、「HJR社が本件ローン・アグリーメントに基づいて支払うべき金額を期限までに支払わない場合、被告は原告に対し書面による請求により直ちにかかる金額を支払うことを無条件かつ終局的に保証する。」旨定められている。

右条項は、本件借主であるHJR社が期限までに支払わない場合に、原告が、被告に対し、書面による請求をしてはじめて被告に支払義務が発生するとされていることからみて、HJR社と被告が同等の地位で債務を負担するものではなく、同社の債務が履行されない場合の人的担保である保証債務の性格を窺わせる規定となっている。

(二)  二条B項では、「被告は、本件ギャランティーにより、HJR社と連帯して、あたかも唯一の主債務者の如き債務を負うのであり、単なる保証人としての債務を負うのではない。」(前段部分)「したがって、被告が仮に主たる債務者であったと仮定した場合に、その債務を免れさせ又は影響を及ぼさない事由は、いかなる事由であろうと被告の債務を免れさせ又は影響を及ぼさないものとする(かかる事由には、(1)HJR社又は第三者に随時与えられる猶予、免除、放棄、同意、(2)本件ローン・アグリーメントの条項、担保、保証、免責に関する修正、(3)HJR社又は第三者(被告を除く。)に対する支払の催促、不催促、(4)本件ローン・アグリーメント又は担保、保証、免責の執行、不執行、(5)担保、保証、免責の解除、(6)HJR社又は第三者の解散、合併、再建、会社更生、(7)本件ローン・アグリーメントの条項、HJR社の本件ローン・アグリーメント下の義務の違法、無効、執行不能、その他の瑕疵が含まれる。)。」(後段部分)旨定められている。

二条B項前段は、単なる保証ではなく、「あたかも主たる債務者であるかの如き債務」とされ、HJR社の債務を「主たる債務者」と説明しており、連帯債務というよりは、連帯保証である旨を定めた趣旨と解されるような規定をしている。

二条B項後段は、文言上は、HJR社が負担する以上の独立した債務を被告が負担するかのような表現になっている。したがって、二条A項、同条B項前段とは異なり、附従性を全面的に否定する趣旨であると解する余地もあり得るところである。

しかしながら、二条B項後段は、同条A項、同条B項前段を受けて、「したがって(Accordingly)」という接続詞でつながり、前で述べた内容を具体的に説明した部分となっており、同条A項、同条B項前段の内容をことさらに否定する趣旨で記載されたものではないとみるのが契約当事者の合理的意思にかなうというべきである。

さらに、具体例として挙げられた七つの場合を検討してみると、いずれも一旦貸金債権及び利息及び遅延利息債権が発生したことを前提としてその後借主に生じた猶予等の事由((1)ないし(6))ないし本件ローン・アグリーメント条項又は借主の義務についての瑕疵((7))が被告の債務に影響を及ぼさない旨を規定したものである。すなわち、ここでは貸金債権ないし遅延利息債権の不発生とか貸金債権の弁済といった事情については規定されていない。その意味において、完全な附従性の否定にまでは至っていないとみることができる。

(三)  ところで、以上のように解すると、二条B項後段(6)で「HJR社又は第三者の解散、合併、再建、会社更生」が被告の債務を免れさせ又は影響を及ぼさないとされていることと矛盾しないかが問題となる。

この点、右条項の趣旨を考えてみるに、二条B項後段(1)ないし(5)の事由との関係に照らして、一般に保証人の責任が主たる債務者の破産手続の免責・猶予・免除等によって影響を受けないとされている(破産法三六六条ノ一三、会社更生法二四〇条二項)ことと同趣旨の規定であると解されるが、この場合は、実体法上日本民法においては遅延利息はその発生を停止することなく債権者は、保証人に請求することができることになるのである。しかしながら後記のとおり本件ローン・アグリーメントの準拠法がフランス法であるところから、法五五条適用の場面において司法救済手続開始決定がなされた後の主たる債務者の遅延利息が発生を停止したような場合には、その時以後の遅延利息を請求することはできないが、既発生の遅延利息については被告に対し請求できることを二条B項後段(6)は注意的に規定したものと解することができる。

(四)  また、二条B項後段(7)も(三)と同様の問題がある。

右の違法・無効の条項は、連帯保証の附従性を否定する趣旨と解する余地があるが、そのように解すると連帯保証的な二条A項及びB項の文言と整合しないようにも思われる。

しかし、HJR社に対して本件ローン・アグリーメント上の債務が一旦発生した以上は、これが無効となっても、基本的には連帯保証であることを前提として、民法四三三条と同種の相対的効力を有する特約を定めたと解することも可能である。

(五)  一二条A項では、「本件ギャランティーは日本法に準拠し、日本法にしたがって解釈される。」旨定められている。

因みに、本件ローン・アグリーメントについての準拠法はフランス法である(乙一二の1)。

3 本件ギャランティーにおいて被告の負う債務の性質については、①本件ギャランティーの契約書の文言は2のとおりであること、②被告は、HJR社の株式の一部を保有するにすぎないこと、③本件ギャランティーにおいて被告は、前記認定のとおり、HJR社が原告を含む銀行団から借り受けた一一億七二五〇万フランス・フランの内元本の一部九二五〇万フランス・フラン(全体の八パーセントにも満たない額である。)及び利息(遅延利息を含む。)の全額について保証しているが、既に保証した元本九二五〇万フランス・フランは一九九三年一月に原告に支払済みであること、④仮に、原告が主張するように、HJR社が後記のとおり法五五条の適用により遅延利息の支払義務を負わなくなった後も、本件ローン・アグリーメントの残元本一〇億八〇〇〇万フランス・フランに対する約定の遅延利息を被告において支払わなければならないとすると、結局被告としては、残元本を弁済しない限り遅延利息の支払義務を免れないことになり、被告に過重な負担を強いることになること、⑤北川善太郎の本件ギャランティーについての意見書(乙八)によると、被告が負担する債務は連帯債務であるとして、「フランス法上HJR社の原告に対する利息の発生が停止した以後は、被告は原告に対して日本法上本件合意書による利息支払義務を負わない。」との結論を導いていること、⑥霜島甲一の鑑定書(乙一二の1)によると、「被告の原告に対する本件契約(本件ギャランティー)に基づく債務負担は、経済的実質的に見れば保証の趣旨であると解せられる。この経済的目的に則して法律構成するならば、保証債務の附従性に基づき、フランスの裁判上の倒産法五五条によって、HJR(社)に対する裁判上の倒産手続開始の判決の日をもって、被告の負担する債務もまたその発生をやめると解される。」との結論を導いていること、以上によると、2の(三)及び(四)の問題点並びに甲一三号証の1、2を考慮しても、本件ギャランティーの基本的な性質が、被告の主張する併存的債務引受あるいは全部義務を負うものと認めるには足りず、かえって、本件ローン・アグリーメントの遅延利息がそもそも発生しない場合には被告に支払義務が生じないという意味の附従性を有する連帯保証契約と認めるのが相当である。

したがって、右の点についての原告の主張は理由がない。

三  争点3(法五五条の適用と被告の債務の有無)について

1 本件ローン・アグリーメントの準拠法はフランス法であるところ、HJR社は、一九九二年一月二二日、パリ商事裁判所に対し、清算の申立てをし、同月二七日、同裁判所は、HJR社について司法救済手続の開始(Judgement opening a judicial recov-ery proceeding)を決定した(争いのない事実、乙一一の1、2)。

法五五条は「司法救済手続が開始されたときは、法定及び約定の利息並びに全ての遅延利息及び付加利息の発生が停止する。但し、一年以上の期間について約定された消費貸借契約又は一年以上の間隔の支払を約する契約から生じる利息についてはこの限りでない。」旨規定している。

同条本文は、債権者平等の原則及び配当の基礎の確定の必要性を根拠として規定され、同条但書は、例外的に長期信用を与えた者を優遇しようという趣旨で規定されたものと認められる。そうすると、法五五条但書にいう「一年」の判断基準としては、契約締結時における期間を基準として判断されるべきである(乙一の1、2、六の1ないし3、一一の1、2、一二の1)。これを本件についてみるに、本件ローン・アグリーメントの当初の弁済期は前記のとおり約六か月と定められ、その後の期間延長も六か月ないし一か月と合意されていたから、法五五条但書は適用されず、したがって、司法救済手続の開始決定により、それ以後の遅延利息の発生は停止したというべきである。なお、法五五条にいうところの「停止」とは、法律の文言等から考えて、実体法上遅延利息債権の発生自体が停止することを意味するものと解される。

2  これに対し、甲一三号証の1、2は、法五五条但書にいう一年の計算方法について、延長により最終的に合意された期間を基準として判断すべきであるとして、本件ローン・アグリーメントに法五五条但書が適用されるとするが、右見解は採用することができない。なぜなら、司法救済手続の開始による遅延利息の停止を原則とし、長期信用の優遇という理由から例外を設けたという法五五条の立法趣旨に照らし、かかる場合にまで債権者の利益を保護する必要性が乏しく、さらに本件事実関係に照らしてみても、本件ローン・アグリーメントが本件物件の購入代金の調達を目的としてなされ、本件物件の転売代金をもって弁済されることが予定されていたところ、転売が遅れたために数回の弁済期の修正がなされており、かつ、個別の弁済期の修正も約六か月ないし一か月と短期的なものに止まることから、例外的に法の保護が付与される長期の融資とは認められないからである。

3  してみると、本件ローン・アグリーメント上の遅延利息が発生を停止したことにより、連帯保証債務の附従性により、原告の被告に対する関係でも、被告が、HJR社に対して司法救済手続の開始決定がなされた一九九二年一月二七日以降の遅延利息の支払義務を負わなくなるというべきである。

四  よって、本訴請求は理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官佐藤康 裁判官稻葉重子 裁判官山地修)

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